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ケータイの名義を自分名義に変えるのを機に、キャリアも変えてしまおうかと悩んでいる。
iPhoneはSoftBankというイメージが強く、安易にお父さん犬の下僕になりそうな自分がいた。
これはいかんと調べに調べたけど、auとSoftBankだとどちらも同じようなもんで、これという決め手が見つからない。
(どうしたものか……)全く決めきれない自分に、突然背の高い男性が声をかけてきた。
「もう、行ってしまうのですか……?」
誰だ、コイツ。
黒縁のメガネをかけ、皺一つないシャツを着ていた。
「ほら、中学2年の時から一緒だったじゃないですか。あの頃は僕も、今とは随分違ったからな~。」
そう言うとくしゃっと笑った。
「夏祭りもディズニーも、あなたの修学旅行で京都へ行ったこともあったな~」
ああ、docomoか。
いや『ああ、docomoか。』ではない。docomoは人間ではない。なにをすんなりと納得しているんだ。
「やっとわかってくれましたか。僕、あなたと離れたくないんです。」
「でも惰性で一緒にいる気がして。いままでdocomoと作り上げてきた空間から抜け出して、新しいものを他の人と作り上げてるのが面倒だから一緒にいるのよ。それだけよ、あなたといる理由なんて。」
docomoは表情を曇らせる。
「いまさらメールアドレス変わったり、面倒。ただそれだけ。」
「でも毎日僕のこと抱きしめてくれたじゃないですか。」
「勘違いしないで。」
そこに毛先を遊ばせに遊ばせまくった若い男が通りかかった。
「あれ?久しぶりじゃん!!元気してた?」
二カッと笑うこの男、こいつは誰だったけか。
「えー、中学入りたての頃の!俺だよ!」
あー、auか。
1年だけの関係だったau。
「あのさ、戻っておいでよ。俺となら新しいものを作り上げる必要ないでしょ?」
「でも随分前のことだし、あなたのこと知ってはいても、メールアドレスは変わっちゃうし。」
「番号は変わらなくて済むんだよ。あのときもそうだったでしょ」
まぶしいほどの笑顔。ああ、こんな風に笑う人だった。別れを告げたあの時もそうだった。docomoに乗り換えると言ったわたしに、番号変わらないからねと、少し悲しそうな笑顔をしたあのときのまんまだ。
「でもわたし、もう10年も前のことだし。また一緒になれるか不安なのよ。」
「俺のこと、信じてみてよ。」
この笑顔を一度は裏切ったのに、それでも屈託なく笑う彼を、まっすぐに見られなかった。
「あのさー、遅いっつーの」
初めて聞く声。ゆっくりと振り返る。
「遅いんだよバカ。俺を待たせんなって」
誰だろう。見覚えがない。いまどきの塩顔男子って感じ。
「お前さ、俺のこと知らないの?知らなくてiPhone持ってるの?iPhoneといえば俺じゃん」
なんだこいつ、驕ってんなと思いながら、思い出した。そうだ、iPhoneといえばSoftBankって、私が言ったんじゃん。
「もう待ちくたびれた。俺のこと待たせた罰だ」
柔らかな唇。え?!??なんで?会ってすぐにこんな急展開?!??
「俺、ぜってえお前のこと悲しませねえから。だから俺についてこいよな」
そう言ってすこし照れたように見えた。
「う、うん、、、」
わたしも俯きながら返事をした。
これからはSoftBankと一緒に、寄り添って、生きていくんだ。
わたしにはもう彼しかいないんだ。
彼のためなら白い犬に頭を下げることだって構わない。
だって、わたし、誰よりも彼のことを……
とここまで妄想したけど、結局メアド変わるとめんどいので、docomoのままでいようと思います。
なんでもいいからイケメンに言い寄られまくりたいな。